映画「大脱走」から人材開発のヒントを得る

映画「大脱走」は、「何があってもへこたれない不屈の男たちのドラマ」と語り継がれている。確かにそうだが、途中でへたってしまう人も出てくるし、諦める人もいるにはいる。それでも立ち上がる姿がそういった評価につながっているのだろう。

中学校の映画鑑賞会で、初めてこの映画を見た時、私も含めた単純でアホな男子達は、授業からいかに脱出するかを考えていたことを思い出す。ほんとに「あの頃、僕らはアホでした」を地でいっていた。

だけどその後、数回テレビで放送され、社会人になって、見落としていた所を発見し、完全にはまってしまった。
そして「なんでこの映画にはまるんだろう?」と考え始めた時から、いろいろな発見をしていることに気がついた。

特に社会人になってから、見返すと、あらあら不思議、普段、クライアントにお伝えしている基本的なことは全部ここに描かれているではないかということにも気がついた。だからといって私が軍隊主義ということではない。そこは間違わないでもらいたい(笑)。
(2020.07.02追記)映画「大脱走」
この映画は、2020年の時点で、60歳台前半~80歳台の男性ほとんどが、見たはずだ。スティーブ・マックイーンのバイクに乗ってスイス国境を越えようとするシーンが記憶に残っている人は多いだろう。
あるいは、エルマー・バーンスタイン作曲のマーチが耳に蘇る人もそれなりにいるだろうと思う。私もその一人で、やる気になってる時に限って、いまだに頭の中でマーチが鳴る(笑)
今回の記事は、1963年公開の映画「大脱走」を通じて、マネジメントする立場の人、リーダーシップ発揮を求められる人、チームをしっかり作り上げたい人、コーチングや指導する立場になった人、協力することを意識し始めた人、交渉を進める人、自律的な行動が求められる人など、人材・組織開発に関するヒントになることをまとめた。また自身の開発することは何かを発見することになるだろう。ヒント満載の映画だ。
少なくとも私にとっては、こういったもののベーシックなバイブルとして位置づけて、何度も見ており、見るたびに新たな発見がある。クライアントのマネジメント層には一度は見るようにお勧めしている。

HumanDevelopHintfromTheGreatEscape


➽➽映画「大脱走」から人材開発のヒントを得る

この映画の見どころは数々あるが、人材・組織開発につながるヒントはほぼ前半に集約されている。
あらすじや見どころは、検索すればいろいろと出てくるので、割愛する。

この映画を自身のトレーニングのひとつとして使うのであれば、ここから先の文章は読まずに、まず映画を見ながらマネジメント、リーダーシップ、チーミング、といったことを意識しながら、これはと思ったところをメモに取り、後から、以下の文章と照らし合わせてみるのもひとつの方法だろう。
以下に書いていないところがあれば、それは私の見落としだし、ぜひ教えてもらいたい。いや、ぜひ教えて下さい。
もちろん、私がまとめた以下の内容が描かれていると思いながら見るのもひとつだろう。

以下、映画の時系列ではないが、視点ごとにまとめた。

➽リーダーシップのヒントを得る

●明確な姿勢を示す
ドイツ軍設営の連合軍捕虜収容所のルーガー所長が「ここは脱出不可能だ。おとなしくしていろ」といった旨を連合軍捕虜の将校ラムゼイ大佐に告げる。
これに対しラムゼイ大佐は、はっきりと言い切る。
「脱走は、敵を混乱させ、後方を撹乱することであり、将兵の義務である。」
まさしく、どんなことがあっても譲れないことは何かをしっかりと持っているリーダーが示す姿だ。

また、一旦は脱出したが捕まってしまい収容所に戻されたヘンドリーが「これだけの犠牲を出して意味(価値)があったのか?」とラムゼイ大佐に質問するシーンがある。
この時、ラムゼイ大佐は、「見方による」と毅然と答える

およそ現在のビジネス上ではあり得ない話しのような、一見、パワハラ的な冷酷な返答ではある。
この一言は、「お前が親友を亡くし、責める気持ちは理解できるが、それは私も同じだ。しかしそれは将兵としての努めであり、目的を果たした結果である。」と言っているようなものだ。
「見方による」と言葉通りに取れば、それはもう冷酷と言われてもおかしくないし、あるいは誤魔化したと言われてしまうかもしれない。
コミュニケーションにおけるコンテキスト(文脈)を理解しているかどうかの問題だが、信頼関係があるからこその一言であると思える。

また危機的状況においては、リーダーは立場が上になるほど、目的に徹し、時には冷酷・冷徹になる必要もある。
こういった時、売上や利益といった目標側に立って冷徹な判断を下すリーダーであれば、人はついてこないのは明白だ。
このラムゼイ大佐に限らず、松下幸之助や本田宗一郎といった、偉大な経営者達も「目的」「理念」といったものが最も大切だと言っている
偉大なリーダーと言われている人達に共通するのは、温情と冷徹さを兼ねもつ情熱家でチャレンジャーであることだ。どうもこれは世界共通のようで企業規模も関係ないようだ。

●目的と目標を明確に設定する
ビッグXと称される人物が登場する。
そして脱出中心となるメンバー(いわば幹部)を集め、脱走計画についてミーティングを行う。このミーティングで、ビッグX=バートレット少佐は、目的を「後方撹乱※」と位置づけ、目標を250名の脱出と設定する。
 ※後方撹乱とは、追撃してくる敵部隊を分散させ、敵の作戦遂行の精度を低下させること

この数値目標は前代未聞の目標で、メンバーはびっくりするが、目的を再度確認し、メンバーの意思が統一される。
まさしく「目的なくして、目標なし」を象徴するシーンだ。

●メンバーの意思を統一する
この映画のドキュメンタリー版で実際に脱出成功した人物がインタビューで答えている。
「集団の目的である脱出して後方撹乱することと、個人としての目的=Go Homeが一致していた。」

人材開発においては、この一致をアライメントと言うが、目的と目標を結ぶ一本の線に、社員が自身の目的を重ね合わせて一致していればいるほど、その組織は強いということは、今も昔も変わりない。
この目的を理念、目標をビジョンと言い換えても同じことが言える。

また、この目的の一致が後に、トンネルを一本に絞った時のモチベーション低下を防ぐことにもつながる。

●コーチングと指示を組み合わせる
このミーティングのシーンはわずか10分弱。
実際はもっと時間は必要だっただろう。
ミーティングの中で、集団脱走のプロ中のプロであるはずのバートレット少佐は、具体的な方法をメンバーに考えるように質問を繰り返す。
もしかすると自身にもアイデアがあったかも知れないし、なかったかも知れない、それはどっちでもいい。
リーダーとして、メンバーの持てる能力を引き出すための質問をする。

この時代にコーチングの概念があったのかといえば、なかっただろう。
それは映画上の演出に過ぎないといえばそれまでだ。学べるものはなくなる。
なぜなら映画の演出は、いかに共感を創り出すかに主眼が置かれている。
見ている人が感情移入しやすいように作られており、それは心理学にも通じる部分が多々あるからだ。

●役割分担に応じた指示でのキックオフ
バートレットは役割を明確にし、具体的なプランをつくるように指示する。
情報収集、トンネル掘り、証明書の偽造、土砂処理、測量、服の仕立、警備、製造、調達といった役割をそれぞれの持つ能力を最大限活かせるように割り振る

これは部門横断的なプロジェクトの場合は必須条件だ。
何かのプロジェクトをやる場合、各分野のエキスパートを集めるのは必須だ。
さらに、その役割を明確にし、質問をし、指示を繰り返すことで、目的に対する意思統一を図るのは、キックオフでは最も重要だ。
失敗するプロジェクトのほとんどは、この3つの必須条件を疎かにしたり、曖昧にする。

➽マネジメントのヒントを得る

●計画でのオプションづくり
映画上でははっきりと描かれているわけではないが、セリフにより3つのトンネルを用意していたことがわかる。
3つのトンネル、それぞれ、トム、ディック、ハリーと名付けられ、同時に掘り進められた。

これはマネジメントのベースとなる問題解決の基本中の基本そのものだ。
第一トンネルのトムは主軸の計画であり、その進行を阻むものが発生することを想定して、すぐに乗り換えられるように、同時に第2トンネルのディックを進めておく。
これは問題解決技法の主軸の計画に対する一次予防策だ。
さらにそれでもダメだった場合のために、第3のトンネルを準備しておく。
これも問題解決技法の主軸の計画に対する、悪影響を最小限に抑えるための二次予防策だ。

ドキュメンタリー編によれば、脱出後、さらにジョージという4つ目のトンネルが掘られたという。

※(2020.07.02追記)
今のコロナ禍、withコロナの中で、トム、ディック、ハリーの考え方を、企業としてどのように扱うかを、近々、アップしようと、現在考え中。

●進捗確認で差を埋める
それぞれの役割りを果たしている状況をバートレットが見て回るシーンがある。ここでも彼は、各エキスパートに任せた業務の進捗を確認しながら、いくつかの課題を見つけ、その解決策を考案するように指示する。

リーダーによる進捗確認は必須だ。例えそれが任せたものであっても、更に良いものにするための質問をしたり、指示することがある。
進捗確認で出来栄えや出来高だけを確認して、次に進むための課題を明確にせずにいるのは、単に現状確認しているだけだ。課題を明確にせず終わる進捗確認はマネジメントの怠慢以外の何物でもない。これは結構やりがちだ。
具体的には、現状と理想や目標との「差」を見極め、これを確実に早く埋めていくための課題を見出し、これについて考える質問をするとうことだ。

●素早い状況判断をする
3本のトンネル掘りがある程度進んだところで、バートレットは、最も掘り進んでいたトム一本に絞るように指示する。これはその一本に絞ることが効率的で効果的であるとの判断から来たものだ。つまり早く確実性が高いとの判断だ。
これは、トンネル掘り担当のチカラを分散させて進めていたが、見込がついた時点でチカラを集約し、一気に進めるという状況判断だ。

ここで、ひとつの疑問が出てくる。
それでは第2のディックと第3のハリーを担当していた者達のモチベーションが低下するではないのか?という疑問。
「俺らはせっかくここまでやってきたのに・・・」というやつだ。
ここに、最初の段階での「目的」の共有化レベル(深度)がものを言う。
集団の目的と個人の目的が一致度合いが強ければ強いほど、モチベーション低下は一時的にあったとしても、それぞれが自身の中で処理できるものだ。

状況判断は他にも随所で見られる。
中でも7/4アメリカ独立記念日のお祭りをしている最中に、完成間近のトムが偶然看守に発見されてしまい、茫然とする連合軍捕虜達の中で、バートレットは、冷静に状況を判断、即座にハリーの再開を命じる。

そこにどのような状況判断があったのか?
なぜ3本目の、二次予防策のハリーにしたのか?
この疑問は中学生の私には当然浮かびもしなかった。
社会人になり、問題解決技法を学んでから見て、わかりだした。

中学生の時は単純に2番目に進んでいたからだろうと捉えていた。
しかし社会人になり、マネジメントを学びながらも、自分自身がマネジメントをする立場になって、数回見ているうちに、ハリーにした理由がわかった。

看守がトムを発見したのは、上司がいない間に、収容所のコーヒーを盗み飲みしようとした時にこぼしてしまい、その滴りが、地下トンネルに落ち、その音と吸い込まれていく様子に気づいたからだ。
一方、ハリーは、シャワー室の排水溝から掘り進めている。
液体の滴りが原因で敵にトムが発見されたのだとしたら、同じようなこと(原因)がきっかけで問題が発生することは可能な限り避けたいという考えがバートレットの頭に浮かんだのだろう。ならば液体が落ちる音、吸い込まれていくことが当たり前のシャワー室であれば見つかりにくいかもしれないという結論になる。

●任せた部下のミスを決して責めることはない
脱走の最初の失敗は、測量段階でのミスがあったことだ。
目標地点までトンネルが届いていなかった。これが致命的ミスだったわけだが、バートレットは測量担当のカベンディッシュを責めることは一切なかった。

もう実行段階に入っていて、引き返せない、となると、担当者を責めたところで何も生まれない。リーダーがストレスを発散させているだけのことになるばかりか、メンバーの不安を煽るだけだ。かといって慰めるわけでもない。

リーダーは、どんな時もどう舵を切るかを冷静に判断しなければならない
この原則からすると、リーダーであるバートレットは実に人間らしい側面を見せる。バートレットは一瞬オロオロする。まさしく「どうしよう・・・どうしよう」という状態だ。
そこで参謀役のマクドナルドが延期をアドバイスする。
バートレットは計画の目的と自身の目的=GO HOMEで揺れる。
リーダーが意思決定に揺れるている時、違う考え方を示してくれる参謀は必要だ。マクドナルトはオロがきているバートレットに冷静さを取り戻すきっかけを与えたことになる。マクドナルド自身もオロが来ていたのだ。
結果、バートレットは自身の順番を遅らせ、成り行きを見守るようにする。

これはリーダーとして、ミスをカバリングしながらも、ある程度、動きだすまでは見守る責任を示すということだ。
しかし、バートレットとマクドナルドはここで、さらに致命的なミスを犯す。
リーダーとサブが一緒に行動をしてしまったのだ。

●準備中やトレーニング中のミスを叱責する
準備段階で、参謀のマクドナルドは、脱出後、ドイツ軍に職務質問を受けた際の受け答えのトレーニングをする。単純なひっかけ質問をし、ミスを誘う。これにまんまとひっかかってしまったら、即アウトとなる。
実行段階でミスを叱責したところで何も生まれない。
うまく事が運ぶようにトレーニングするわけだから、ここで叱責を受けることは当然だろう。
現在は、パワハラにならない程度が求められるので慎重にならざるを得ないが、それもこれも関係性によるものだと考えれば、目的の一致がそこにあるかどうかが問われる。

●リーダーや指導担当といえどミスをする
サブリーダーであるマクドナルドは、指導担当として、職務質問の訓練をしていたのだが、逃走中に、その訓練そのものとまったく同じひっかけ質問の罠にひっかかり、危機的状況に追い込まれる。

トレーニングで一回やっただけで、そのスキルや知識が身につくわけではない。
何度も繰り返してやっと身につく。わかったつもりがわかっていないということは、よくあることだ。
リーダーや指導する立場であっても、それは同じだ。完璧にできるわけではない。ただそれを知っていて、努力を重ねているかどうかの違いでしかない。


●リーダーとサブリーダーは一緒に移動しない
バートレットは、参謀のマクドナルドと一緒に脱出した。
これはトンネルが目標地点まで到達していなかったことがわかった時点で、リーダーとして、サブであるマクドナルドを先に行かせるか、後を任せるかの判断をしなければならなかった。
何しろ、脱出しようと頑張ってきたメンバーは、早く出たいと気持ちが焦っている。それが出口付近まで来て「実は距離が足りない」と言われると動揺が生まれてしまう。ここはリーダーかサブはどちらかが残って指揮を取らねばならなかったに違いない。

また、脱出後、この二人が一緒に行動していたがために、土砂処理担当のアシュレーが犠牲になってしまう。アシュレーの犠牲がなければ、二人が即座にアウトになっていただろう。
リーダーとサブはリーダーが一緒に動くことはリスクが高まるということがわかるシーンでもある。

➽チーミングのヒントを得る

●チーミングのGRIPを図る
※チームの成長サイクル=GRIPについては、こちらの中程も参照
GRIPとは、明確な目標(Goal)があり、それぞれの役割責任が明確(Roles)で、信頼あるコミュニケーションによる人間関係(Inter Personal)、及び、プロセスとプラン(Plan)の共有の頭文字を取ったもので、まさしくチームとして「握っている状態」を指す。

この4つの要素のうち、Goal、Roles、Planについては上記の通り。
ではInterPersonal(人間関係)はどうか。
収容所の集められた捕虜達は、何度も脱出を試みた者達で、その意味でそれぞれの個人的な目的は一致している。
ドキュメンタリーでも「全員が同じこと(脱出する)を考えていた」と語られていた。

これは私の実感ではあるが、目的が一致していて、それぞれが役割責任をしっかりと果たしていれば、否定的意見は前進するための心配事でしかない。あるいは否定的な意見が出たとしても、そこには代案が必ず出てくる。
目的が一致していれば、単なる否定は生まれないのが不思議だ。
ここに良好な人間関係が生れる。ムダな駆け引き、余計な憶測的なものはない。
こういうチームは強いし、確実な成果や目覚ましい成果を生むのを何度も見てきたし、実感もしている。

(2020.07.02追記)2019年の夏、日本ラグビーチームの活躍は目覚ましいものがあった。そして監督や選手から「全員が同じこと(目的・目標)を考えていた。」との言葉があった。ここから「ワンチーム」という言葉が流行った。この映画「大脱走」もまさしくワンチームを描いた映画だ。

●協力意識を示す
映画の冒頭。収容所に連行されてきた捕虜の数人が脱出しようと試みる。
この時セジウィックが自身は脱出するつもりはなく、わざと騒ぎを起こして、看守達を陽動し、脱出チャンスをつくりだす。しかし、この脱出はすぐに発覚してしまう。これが「脱出不可能だ」とのルーガー所長の言葉につながる。

また当初、単独脱出を試みていたアメリカ陸軍大尉ヒルツに、バートレット少佐は、トンネルを出た後の脱走経路と収容所外部の情報をつかんで再度捕虜になって戻ってくるように依頼する。ヒルツは250名というとんでもない目標を聞かされ、一瞬心が動くが、結局断る。連合軍とはいえ、自身のアイデンティティはアメリカ軍にある。捕虜のほとんどはイギリス軍やオーストラリア軍だ。
しかし、脱出の相棒となったイギリス軍アイブス中尉が射殺され、これをきっかけとして、バートレット少佐の依頼を受けることにする。計画の目的に焦点を合わせたということだ。

保険証などの偽造を担当していたコリンの視力が異常をきたし、バートレットから脱出を断念するように言い渡されるが、これにヘンドリー大尉が自分が付きそうと申し出る。

トンネルキングと称されるダニー大尉には、同じくトンネルキングの親友ウィリー大尉が付添そった。ダニーは落盤事故に何度もあっており、暗闇にトラウマを抱えてしまい、何度もトンネル掘りを断念しそうになってしまっていたが、ウィリーが励まし、一緒に脱出することを約束していた。

これらの協力意識は、それぞれの目的「Go Home」が共有され、役割りを果たしていくうちに人間関係が築かれて、共に進んでいくパートナーシップ以外のなにものでもない。単に仲がいいわけでも利害が一致したわけでもなく、いわば「戦友」であるが、同じ目的を持っているからこそのパートナーシップだし、共通する言葉で「Let's」というものがあった。

●チームを慰労する
7/4の独立記念日。アメリカ人のヒルツとヘンドリーとゴフが芋から作ったウォッカを密造し、それぞれの役割りを果たす捕虜全員に振る舞う。
第一トンネルのトムがもうすぐ目標に届くというタイミングでの、ひとときの楽しみとやすらぎを感じるちょっとしたお祭り気分を過ごすことになった。
しかし、この時に上記「状況判断」で書いたトムの発覚につながる。

モノゴトがある程度進捗し、同じ目的で集まっているプロジェクトチームでは、大抵、こういった途中経過での「慰労会」が設定される。
あらかじめ予定しておくことではなく、そういうことをするのにいいタイミングで入れることが重要で、そのタイミングを逃してしまえば、しない方がかえって良い場合もある。それぐらい柔軟に動けるようなメンバーがいるチームはやはり結束力も強い。

➽自律的に動くことへのヒントを得る

●指示される前に考えている
バートレット少佐が、最初のミーティングで、役割りを指示し、具体的な方法を求めるシーンがある。
ほったトンネルの土砂を、どこにどうやって、敵にわからないように処理するかの問題があった。
これに対して処理担当のアシュレーは、この問題に対して「すでに実証済みだ」といって処理方法を提案・実演してみせる。

●不足をすぐに補う役をかって出る
測量担当のカベンディッシュの測量が正確ではなく、計画されていた森の中までは届いていなかったことがわかる。ここで外部情報を入手して戻ってくる代わりに一番に脱出する見返りの確約を取り付けていたヒルツは、ロープを使って合図を送る役割を自らかって出る。

自分の損得で動いていれば、最初に出たヒルツは、自分だけが逃げれば良いとも言えるが、アイブスの思いや、脱走計画の目的に立ち戻れば、個人よりも全体の利益へと違う判断が生れる。
おそらくヒルツは、目的に立ち戻ったということだ。

迷った時は、必ず目的に立ち戻れば、そこに答えはあるということだ。

途中でこの役割りは交代することになるが、ヒルツは結局、一番の脱出者にはならず、逃げることは逃げたが、逃げ遅れになってしまった。

●それぞれのやり方で進む
脱出後のことは、それぞれの自己判断で、と言ってしまえば、無責任だと思われるところもある。しかし、脱出の目的は、後方撹乱であり、それぞれのGo Homeである。その意味では、全員が集団で動くことよりも、自律的に分散して逃げる方法を取ることには抵抗はなかっただろうと思える。

●自身のアイデンティティを示す
この映画の最も盛り上がるシーンと言えば、ヒルツがスイス国境をバイクで飛び越えようとするところだ。銃撃され失敗に終わってしまうが、鉄条網にからまりながらも立ち上がったヒルツは、シャツの裏側につけた襟章を見せつける。
「俺はアメリカ軍で、この脱走は俺一人でやったことだ」と言っているように見える。

自身のアイデンティティは何であるのか?これを常に持っているようにしたいものだ。かくしてヒルツは再び独房に入れられることになる。

私が組織開発をする上で、大切にしているものに「セルフコンセプト」というものがある。企業の理念(存在目的)と個人の目的のアライメントを図るものだ。
理念とビジョン経営をする上では、不可避なものだと確信している。

➽娯楽か学習かは見方による
長々と書いたが、以上のように、リーダーシップ、マネジメント、チーミング、自律性といった要素が随所に散りばめられている。それもほぼ前半に。
上記したものの他にも、リーダーであるバートレット少佐の参謀マクドナルド大尉や警備警戒体制を構築したソレン中尉など、それぞれが役割を果たすために、工夫を考案し実行する。
後半はそれぞれの逃走シーンの連続オムニバスとなる。
全ては個人個人の判断に委ねられた行動を取り、逃走を繰り広げられる。


そしてどれだけ練った計画でも、状況は変わるので、完璧はないということだ。
あるいは完璧に作れたとしても、それは実は思い込みで、そうあって欲しいという願いだけで、実際は情報の質と量に左右されることを忘れてはならない

しかし、収容所という何もないところで、トンネルを掘る道具や通行証、平服までを敵にバレずに250名分を調達・用意したことは事実で、驚嘆に値する。
その気になれば、あるもので工夫していき、なんとかしてしまうのが人間の底力ということを教えてくれている。

そして外部情報を掴んで戻ってきたヒルツが独房から開放されたのは、脱出当日だったため、情報が脱出メンバー全員に行き届いていたとは考えにくい。
やはりメンバーとの情報共有はスピードと正確さは求められるのは、いつの時代であっても必要だし、情報がないと的確な判断ができないことがわかる。
情報なしの判断は、単なる思い込みでしかないこともわかる。

脱出合図が待ちきれず飛び出した77人目の服の仕立て屋グリフィスが見つかったところで、目標の250人には届くことはなかった。
メンバーの誰か一人が焦りだすと、周りも焦りだす。
コアとなるメンバーが早々に脱出したのが、仇になってしまったとも言える。
やはり実行段階でリーダーとサブは一緒に動いていてはダメだということだ。

そして後半の逃走シーンでは、情報不足、ちょっとした油断から捕まってしまうことが続く。
逃走途中で50人が射殺され、10数名が収容所に戻され、結局逃げ切れたのは3人。差の人数は不明とされているようだ。

もしこの時、情報が行き届いていたら?測量失敗がわかった時点で、参謀のマックの「次のタイミングまで待つ方がいい」というアドバイスをバートレットが聞き入れていたら?と見るたびにいろいろと疑問が浮かぶ。

それでも、この大脱走を成功とみるかどうかは、ラムゼイ大佐の「見方による」の一言に現れている

(2017.04.15追記)
歴史に「もしも」はないといわれる。
その「もしも」は理想に近づけるための「問い」に他ならない
そこに学べることが生れるのだと私は思う。

娯楽か学習か。
最初は娯楽でもなんでもいい。
次にそこから何かを学び取れれば、まさしくグリコのおまけだろう。

私は「見方による」という一言が、この映画の最も重要なセリフであり、考えさせられる言葉だと捉えている。

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