社員参加型経営を実現する鍵はメッセージにある。
社員との距離というジレンマ
社員全員参加型経営という言葉を聞いて久しい。会社組織は不思議なもので、社員数も増え、事業も軌道に乗り始めると、トップとしては、より大きな目標を掲げ、これを目指してやっていくぞと旗を振ることになります。そうしたいかどうかは別として、そうしなければ、雇っている社員の成長意欲が止まることを知っているからです。その反面、社員との距離が遠くなるというジレンマに陥る経営者も多々いるのも事実です。
そこで経営手法として、数年前から「社員全員参加型経営」というものが出てきましたた。小さい集団から始めるスタートアップなどの起業したての小さな会社であれば、このジレンマに陥ることはほぼないでしょう。むしろ、事業部を複数抱え、総務・管理部門を持つ中小企業が成長するにつれ、陥るジレンマです。
私も「社員全員参加型経営をしたい」と相談を受けたことは少なくありませんが、本当の意味で実現している会社は多くはないのが実情です。
社員全員参加型経営には様々なやり方がある
弊社が提供してきたものも含めて見聞きしてきた進め方としては、大きく分けて5つです。1.ビジョンや経営計画の策定、実行を全員で取り組むこと
2.社内の業務プロセスを全社員で再構築すること
3.社員全員参加の研修などを設定し、共通言語をつくること
4.社員持ち株制度を導入すること
5.会社の売上から給料決定までのお金の流れを社員全員が理解できるようにすること
どれかひとつもしくはその組み合わせといったところです。どれも良いものだし、間違っているわけでもありません。これらに取り組むことは相当なエネルギーが必要だし、道半ばで頓挫してしまってもなんら恥ずかしいものでもないでしょう。むしろ、道半ばで頓挫したとしても、確実に成長は図れている企業の姿を私は何度も目にしてきました。
道半ばで頓挫する理由はそれなりにある。
頓挫する企業に見受けられる理由は、ほとんど共通しており、おおよそ以下の6つです。1.問題を担当部署の責任として解決を求める。
役割責任という意味では、間違いではありません。しかし問題解決イメージを持たないまま進めても意味をなしません。取り扱う問題が明確になっており、その重要度・影響度が高いものは、他部署であっても解決イメージを持っている人材を中心に進めていくと良いでしょう。その方が圧倒的に速く解決に辿りつきます。解決できないまま危機的な状況に陥ってしまってからでは遅いのです。
2.ビジョンの共有化が図れていない。
ビジョンを掲げたものの、社員一人ひとりが自分自身の価値観や成長とビジョンのアライメントが取れていない場合、共有化はなされないものです。ビジョンは絵に描いた餅のままで、妄想のままです。単に共有するだけならば、それでも良いと思いますが、「では私はこうする。これに重きを置く」と社員一人ひとりが判断できるレベルまで落とし込めなければ「共有化」ではありません。ビジョンが曖昧であるならば、それは表現なのか定義なのか、あるいは全員の理想にするためのプロセスがないのかを見直す必要があります。
3.戦略づくりとこれに伴う権限をトップが握ったまま
戦略づくりはトップの大きな仕事です。そして本当に必要で重要な情報はより現場に近い者がよく知っています。しかし彼ら現場は戦略づくりにそのまま活かせるような「言葉」を持ち合わせていないこともあり、聞いただけでは、ほぼ有益なものは出てこず、戦略づくりは無理だと考えてしまうことが多いようです。現場の声を聞き、その内容をそのまま反映することが重要なのではなく、聞いた上でどうするか・・・いったん抽象化し、これを吟味した上で具体化する・・・の判断とその対策に対する意思決定が重要です。
4.現場が自由裁量できる幅を持たせていない
これは上記3にも通じることです。戦略をカタチづくって、実行するのは、あくまで現場です。この現場に自由度がなければ、戦略は単なるルールになるだけで、窮屈な思いをします。経営陣にとっては「当たり前」のことでも、現場にとっては、小さな窮屈さが大きくのしかかります。かといって、経営トップが現場の声を聞きすぎると、往々にして「3」に戻ることが多いので注意したいものです。戦略性を保つことはとても重要なのですが、実は実行段階においては、自由裁量できる幅が広いほど成功するようです。
5.問題解決思考、戦略思考の人材を育てていない
「育つ人材はかってに育つ。」これはこれで間違いないものです。そして重要なことは、育てることで、育つことで様々な環境変化に対応できる人材も出てくることです。しかし時間はかかる。あるいは集中して育てる期間が必要となる。短期的に育成しようと、あれこれいろいろなプログラムに手を出すくらいなら、一つか二つにしぼって徹底的に続ける方が確実に成長するものです。
6.リーダーとしてのメッセージがない。
リーダーシップには様々な型があります。サーヴァント型、コーチ型、指揮官型・・・云々。しかしリーダーになりたくてリーダーになった人は過去の偉人にもあまり見当たりません。彼らに共通しているのは、やることなすことにメッセージが込められていたことです。どんな型であろうが、どんな人であろうが、どんな立場であろうが、いずれにしても、やること言うことひとつひとつに社員に対するメッセージを込められているかどうか?これが蓄積されるにしたがって社内コミュニケーションのコンテキストになります。更にコンテキストは社内の風土・文化につながります。
リーダーに最も重要なものはメッセージ
弊社ではリーダーにとって最も重要な要素として見ているのは、「6.リーダーとしてのメッセージがない」というところです。経営トップがリーダーとして、メッセージを発信することは、社員一人ひとりに向けた言葉ではありません。(そんなことは誰でも知っていると聞こえてきそうです。)そしてこれが蓄積されていくにしたがって、トップに言動一致があるのかないのかを社員は見て取ります。
メッセージが単に言葉で終わってしまい、言動一致が見受けられなかったら、幹部社員はそれを見抜きます。見抜かれただけならまだ良い方です。それが「やらない理由」「考えない理由」になり、そして人材が育つ環境はいつまでたっても整備されずとなっていくと考えるとどうでしょう。あるいは自分の都合のいいように部下に話しをする幹部も出てくきます。一見、自分で考え、判断しているように見えますが、実はそうではないということがあり得ます。
部下に言いにくいことや、自分がやりたくないと思っていること程、どう伝えるかを考えず、「社長が決めたことだから」という断れない理由に使うことがあります。これではメッセージも何もあったものではありません。しかし、「言動一致」が見られないことに起因すると考えれば、それほどまでに経営トップのメッセージは重く、影響も大きいということです。
リーダーとして発した言葉によって、何が伝わったか?社員一人ひとりに届いたかどうか?そこにメッセージがあったかどうかが、社員全員参加型の鍵となります。それどころか社員全員参加型かどうかに関係なく、どんな経営手法であっても重要なものでしょう。
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