理念に立ち戻り、第2波に備える

2020年最初の投稿記事で、「VUCAな状況が続き、3年先も見えず、今の経営者は心中穏やかではない」という話を書いた。
これに新型コロナウィルス感染拡大が拍車をかけ、わずか数週間の間に誰も経験したことがない危機に直面した。従来の経済活動や一人ひとりの行動のほとんどに自粛や実質的な一時停止を求められた。
6月19日、県境移動、自粛要請がほぼ全国的に解除され、街に人の姿が戻り始めている。

コロナショックが始まってこれまで、企業トップや各層のリーダー達は、過去に例のない状況での事業活動を余儀なくされ、新型コロナによる不確実で不安の連続の日々を乗り切るための迅速な判断が求められた。しかしまだ終わったわけではないことも事実。悩ましいところだ。

コロナショックからの約5ヶ月、企業のリーダー達は何を基準に判斷をしたのか、そして「新たな日常」における企業の在り方や第2波に備えながらの経済活動は、何を基準に判断していくことになるのかをまとめた。

➽➽リーダーの姿があぶり出された

今年2020年の1月後半からの約5ヶ月は、毎日のように、新たな決断が求められ、かつてない程のスピードが要求された。
業種によっては廃業に追い込まれた会社も多々ある。
今後、第2波、第3波に備えつつも、事業体制あるいはビジネスモデルさえも変えて行かざるを得ない状況下であることには違いない。
そういう意味では、経営トップのみならず、リーダー達の真価は問われることになる。

➽社員の立場から見た「あぶり出されたリーダーの姿」

阪神大震災の時も、東日本大震災の時もそうだったが、危機的状況に陥った時、経営トップや組織のリーダー層の素の姿があぶり出される

・必要な情報を集め、素早い判断と柔軟に適応策を次々と打出したリーダー
・最初は素早い判断をしたが、それで安心したリーダー
・部下からの意見を求め、判断・決断も委ねたリーダー。
・いつもと同じプロセス・手順にこだわったリーダー
・うろたえているばかりで、指示を待つだけのリーダー。
・手の打ちようがないと、諦めたリーダー。
などなど、様々なリーダーの「素の姿」があぶり出された。

こういったリーダーが、どんな判断をし、そのスピードがどれほどのものであったかというところは、社員の心の中に刻まれたことは間違いない。
きつい言い方だが「アテになるリーダーかそうでないか」ということだ。

これらのリーダーのうち、社員に安心感を与えたのは、上記の一番上、「必要な情報を集め、素早い判断と柔軟に適応策を次々と打出したリーダー」であることは間違いない。

しかし、これとて社員にしてみれば、文句のひとつぐらいは出ることもあっただろう。完璧な安全、完全な給与保証がなければ、絶対的安心というのは生まれないからだ。完璧で完全な保証というものは、どんな企業でも無理な話だ。
ほとんどの企業は、安全・安心と事業継続のバランスを推し量らねばならなかったというのが実情だろう。だからこそ慎重にならざるを得なかっただろうし、判断が遅くなったことも否めないのだ。

では、素早く柔軟な適応策を打出したリーダーは何を基に判断をしていたのか?
クライアントとオンライン会議を重ねている中で、チラホラと聞こえて来たことがある。

➽➽判断の軸を理念に置いたリーダー

まず勘違いしないでもらいたいのは、素早い判断と柔軟に適応策を次々と打出したリーダーが、精神的に強いとは限らないということだ。
私が知る限り、むしろ臆病で心配性の塊のような人達だ。
楽観的な側面はあるが、モノゴトを見る時は楽観視することはない。
慎重派であることはまちがいなく、彼等が真っ先に考えたのは「社員の命を守ること」だった。そして決めたことを実行に移すのが早かった。
これは阪神大震災や東日本大震災の時にも、素早く考動したリーダー達の姿と共通する。

情報収集・判断・柔軟で実行も素早い。なのに慎重。

こういうリーダーの特徴には共通点が2つある。
①「何のために、誰のために、早くやらなければならないのか?」が明確。
②止まってじっくり考えることと走りながら考えることを区別している

上記①はモノゴトの目的を明確にする為の問いそのものだ。
企業における目的は、全て理念に定義されている。
彼等は判断軸を企業のあるべき姿として定義されている「理念」に置いていた。
社員を守ることが、顧客を守ることに通じ、事業を守ることになる。
更に社会を守ることにもつながる。といった考え方だ。

この考え方は、最近ではパーパスドリブン経営ともいうが、随分以前からある理念に基づいた経営手法となんら変わりはない。
パーパスドリブン経営は、端的にいうと「存在理由」「存在意義」というものだが、実際は存在理由も含めた経営姿勢であり、行動指針といった理念に基づいた経営手法だ。

何のために存在しているのか?そのためにはどのような経営をするか?そしてどのような行動をするのか?この問いへの回答は、全て理念に定義されている。

社員、顧客、事業、社会・・・いずれも「人」がいるからこそ成り立つ。
そうであるからこそ「人」を優先するのは当然だ。
更に、多少の経済的余裕を有していたり、余裕がなくてもできることは何か、コロナ収束後につながることは何かと考え、あるゆるステークホルダーにも気を配った企業もある。

弊社が関わる国内外のクライアントも、納入業者、取引先、地域の医療従事者などを支援した。また弊社のような人的サービスの契約をしているところまで配慮し、契約は続行、購入困難状態にあったモノを送っていただけたことは、ありがたかったし、改めて頭が下がる思いだ。

②の区別は、モノゴトに対する区別化だ。
ざっくりと言えば、問題と課題の区別。あるいは以前と以後の差異の見極めといってもいいだろう。自社で変えられるものと変えられないものは何かを区別していたということだ。この考え方は問題解決の考え方そのものだ。

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➽➽慎重なリーダーの迷い

そして徐々に要請という名の規制が緩和されはじめ、都市圏としては最も遅れていた東京都も、ほぼ全面的に解除となった。県境またぎ移動も可能となった。
あらゆる企業の経済復旧活動が始まっているが、上記のリーダーはまだまだ慎重でいて、楽観的な素振りをしていても楽観視は一切していない

慎重になっているその理由は以下の通りだろう。
●第1波は収束傾向にあるとされているが、まだ終わってはいない。
●第2波はすぐそこに来ているし、いつどこで感染クラスターが発生するか、本当のところはわからない。
●ワクチンが開発されても、それが行き渡り定着するまでは、1年半どころか3年程度はかかるかもしれない。
●緩和・解除されても、コロナ以前のような経済活動ができないことは理解しているが、その方法は模索中。
●補正予算を成立させ、支援をするといっている国や自治体の支援がどこまで期待できるかは不透明。もともと財源が赤字の国だからだ。
といったところがわかりやすいところだ。

加えて、金融系・損保系のアナリスト達は、これからしばらく、2008年の金融危機後の大不況と同じように状態になるとも分析している。特に米中の関係は日本に大きな影響をもたらす。しんどくなることは極まりない。
事業の売上拡大どころか、売上の維持が難しくなるのは目に見えている。

そうすると、リーダーとしては、以下のことにも慎重にならざるを得ない。
●配送・宅配・入替・陳列とデジタル化不可能な商品取扱の代替に伴うコスト
●顧客や取引先のオンライン商談、人材育成のオンライン化への切換えに伴う自社対応コスト
●急遽リモートワークに切換えた業務継続でに伴うコスト
●リモートワークを加速させるためのクラウド化に伴うコスト
●オフィスレイアウトの変更やこれに伴う改修コスト
●国や自治体からの支援策で借りたお金の返済
●デジタルマーケティング強化に伴うコスト
などなど、上げていけばキリがないが、どれも「社員の安全・安心」と「顧客の安心・安全」を中心にした考えからの発想に他ならない。

➽社員の安全優先か利益が優先か?そこではない。

ここでコストをカバーをしなければならないことに焦点が当たりすぎると「利益確保」「利益目標」というものが当然のことながら第一優先となる。
どれだけ素早い判断と慎重さを兼ね備えている企業トップやリーダーであってもも、この点=「社員の安心・安全優先か、利益優先か」で、大きく悩み・迷うことになる。

一方で、素早い判断・柔軟かつ慎重のリーダーの下で働く現場の社員はどうしているか?
彼等は、どうすれば仕事をより確実に続けられ、顧客との関係性を維持していけるかを模索し、工夫を重ねている。
そうすることが自身の仕事・業務であり、自身の生活を守ることに他ならないと知っているからだ。
これは現場社員が、常にセルフコンセプトや会社理念に判断軸を置いているという証左だ。

もう答えは明白だろう。

➽➽理念に立ち戻り、第2波に備える

常々私がクライアントに一貫して伝えていることだ。
「迷ったら理念に立ち戻る」
特に今は理念に基づく判斷・意思決定を続けていくことになる。
社員を守ることが、顧客を守ることにつながり、事業を守ることになる。
理念に立ち戻れば、何を優先していくかは明らかだ。

➽リーダー自身が自分に理念を問う
現在の状況下で、経営トップや幹部がリーダーシップを発揮するには、リーダー自らが問いを持つことだ。
まずリーダー自身が心身・思考共に最善の状態を保つこと
常に自分自身への「問い」を持つこと 
 例えば、「今、最速スピードで意思決定するには、自社に足りないことは何
 か?」「自社内で変えられるものでも、変えられないと思い込んでいるものは
 ないか?」といった具合だ。自身の中で浮かんだ疑問をそのままにしておくこ
 とは、お勧めしない。
そして最善を尽くすこと
・仕事仲間や周囲の人達を支援・助けるために何をするか・しているか?
・自身の成果と組織の成果をつくりだすために何をするか・しているか?

これをもっと簡潔に、はっきり言えば、
「今は儲けよりも、できるだけ稼ぐこと」
もちろん、社員を守ることが第一だ。
だからこそ、今は利益を目標とせず、動ける範囲で稼ぐことだ。

稼ぎが出れば、会社は回る。
稼ぐことを少しでも大きくする。
これには少なからずチャレンジを伴うことになる。
そうしていく中で、新たな利益も確保できていくだろう。
社員は不安の中でも、これも知っている。
実際、自分が何をすべきかを自ら発見した社員の士気は高まっている。
これを諌めるリーダーがいるとしたら、それは大きな間違いだ。

いずれ第2波が来て、また自粛要請が始まることは想像に難くない。
安全を確保しながらも、動けるうちに動ける範囲で、稼いでおく
そして、この誰もが危機感を抱いている現在、会社の体質を変えていく大きなチャンスでもあることを忘れないようにしておきたい。

東日本大震災時にビジョンと目標の取り扱い方について既に書いているので、そちらもを参照していただきたい


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